2021年4~12月の上場銀行の業績は増益決算となったようです。しかし、この好決算は21年3月までに受け付けた、信用保証協会が保証することによる貸倒リスクがゼロで、さらに都道府県が利子補給することによる実質金利がゼロになる、いわゆる「ゼロゼロ融資」の急増と、そのゼロゼロ融資を中心としたコロナ緊急融資対応で倒産が減少したことに伴う貸倒引当金の縮小によるものと受け取られています。日本経済新聞は「地銀、かりそめの好決算」という見出しで報じており(22年2月15日)、好決算は一時的要因によるもので、経営の本質的な厳しさは変わらないというトーンで報じています。
銀行の苦境は本業である貸出の収益低迷が主因です。銀行も投資信託販売等に係る手数料収入や有価証券運用等の貸出以外の収益拡大に努力してきているのですが、期待通りの結果をもたらしているとはいえず、収益基盤は依然貸出に依存しています。貸出の収益低下はいうまでもなく、カネ余りに伴う金利低下で利ザヤが縮小したことによるのですが、その利ザヤ縮小を銀行が取るリスクとリターンの視点から検証してみたいと思います。
ビジネス上のほとんどの収益(リターン)はリスクを取る対価として発生します。銀行の本業である貸出収益のリスクは最終的には貸倒リスクという言葉に帰着するのですが、その貸倒リスクは、大きくクレジットリスクと期間リスクとに分解することができます。
クレジットリスク
クレジットリスクとは貸出先の個別の信用状態に起因する貸し倒れに対するリスクです。100%安全な貸出先というのはありません。どんな貸出先にも、大なり小なり破綻するリスクが存在します。その対価として金利を受け取ります。したがって、信用度が高い貸出先の融資は金利が低く、信用度が低いと金利は高くなります。
信用度に応じて金利が変わるということは、銀行が資金を調達する場合にもあてはまります。現在、銀行が預金者から預かる金利には大きな差はありませんが、銀行が市場から資金を調達する場合は、信用度が高い銀行ほど低い金利で資金を集められます。
もし、銀行が預金ではなく、すべて市場から資金を調達して、その資金を原資に貸出を行うとしましょう。市場では銀行も一般企業も同様に信用による格付けが行われ、金利は段階的に差がついています。そのため、銀行が貸出により利ザヤを確保するためには、自らが市場で調達した金利より、高い金利を付けることができる信用力が劣る企業に貸出を行わなければなりません。つまり、銀行が自分より使用力の高い企業、例えばトヨタ、あるいは国にカネを貸しても逆ザヤになるだけで、儲かるわけはないのです。
だから、銀行は自分より信用度の低い企業に貸出を行い、収益を獲得してきたのですが、カネ余りの中でどこの銀行も事情は同じですから、そうした信用度の低い企業に対する貸出が増加しました。そうすると、競争原理から信用リスクの高い企業に対する貸出の金利が下がってきます。世界的低金利の中、優良企業に対する貸出金利はほとんどゼロに近づき、下げ余地がなくなっていますから、かつて存在したクレジットリスクに応じた金利差が徹底的に圧縮され、銀行のリターンも減少しているのです。
期間リスク
ただ、優良企業に対する貸出でも収益を上げることができる場合があります。それは期間リスクを取ることです。貸出期間が長いほど、貸倒リスクは高まりますから、金利は高くなります。銀行預金は1年以内の短期が大部分なので、10年とかの長期貸出を行えば、利ザヤが獲得できるはずです。ですから、かつては期間10年の国債を購入すれば、国の信用度は当該国内で最高級に位置づけられるので、クレジットリスクのリターンは望めなくても、期間リスクに応じたリターンは取れたのです。ところが、長期貸出金利の指標となるこの長期国債の金利は、民間の購入に加え、異次元の金融緩和に伴う日銀の購入による強烈なインパクトで、ほとんどゼロに張り付いてしまっている状況です。その結果、期間リスクに応じたリターンも消滅してしまいました。
カネ余りが収益機会をつぶす
このように、カネ余りと異次元の金融緩和政策が銀行の収益機会をことごとくつぶしてきており、現状の金利体系はリスクに応じたリターンとは言えない状況です。経済的に平穏な状態が続けばいいのですが、ひとたび企業の破綻懸念が顕在化すれば、たちどころに銀行経営は苦しくなることが予想されます。だから、増益でも「かりそめ」という見出しが付けられるのであり、これからの将来に明るい展望が開けているように見えません。銀行はこれからのビジネスモデルをどう描くのかが問われています。